【ネタバレ有り】『君と彼女と彼女の恋。』と『School Days』の対極性と、没入型プレイヤーの敗北宣言
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『君と彼女と彼女の恋。』(以下『ととの。』)は、俺の「エロゲへの取り組み方」と大変に相性の良い一作だった。
一方で、批評空間などのレビューを読むと本作の掲げる「エロゲへの取り組み方」に対して相容れないと述べる者が多数見受けられる。
そこでこの記事では、俺が『ととの。』と対極の関係にあると位置づけている『School Days』(以下『スクイズ』)を考えることで、俺と『ととの。』とが共有する「エロゲへの取り組み方」を浮き彫りにすることを試みる。
以下は両作のネタバレを含むので未プレイの方は注意。
特に、個人的に『ととの。』のネタバレを未プレイの人には踏んでほしくないので、そこは特に。
まずはザックリ。
『ととの。』は、プレイヤー(君)とヒロインが恋愛するゲームである。
『スクイズ』は、主人公(誠)とヒロインが恋愛するゲームである。
俺の「エロゲへの取り組み方」は、まず主人公を殺す。基本的にどのエロゲをプレイしていても、主人公とヒロインの関係を、俺とヒロインの関係に置き換えて読む。「ヒロインは俺の嫁」であり、だから「ヒロインは○○(主人公名)の嫁」という文言を嫌う。
そこで『ととの。』はゲームの方から進んでそのような状況を作りあげてくれる。だから俺と『ととの。』は相性が良い。
ではその逆はどうか。つまり俺が付け入る隙がないほどに、「主人公とヒロイン」という関係が強固な作品。それを突き詰めた作品が『スクイズ』だ。
しかしこの二作品はどちらとも極端に過ぎる。
ほとんどのゲームはここまではっきりとプレイヤーか主人公かのいずれかが突出して優位に立つ形をとっていない。
大体は「どちらかといえばプレイヤー」か、「どちらかといえば主人公」かが、ヒロインと恋愛するという形になるだろうか。
まず「どちらかといえばプレイヤー」に寄った作品は古めの作品に多い。
主人公の名前や性格が変更可能だったり、多くの選択肢を配置することで「主人公の意思決定を操作する自分(プレイヤー)」を明確にしたり、主人公の前髪を伸ばして顔を隠すことによりキャラクター性を削いだりといった演出で、プレイヤーを優位に立たせている。
余談であるが最近のゲームでは(自分は未プレイであるが)『LOVELY×CATION』シリーズなんかがその方向性を模索しているように感じる。
一方で「どちらかといえば主人公」に寄った作品は近年増えてきた。
主人公に明確なキャラクター付けをすればするほど、その傾向は顕著になることは想像に難くない。声まで付けられたら、たとえ感情移入は可能でも自身との置換などできやしない。恐らく美少女ゲームに物語性が強く求められるようになった変化による反動のように感じている。
これも余談であるが、『いたいけな彼女』は製作者の明らかな悪意の上で、二つのエンディングのどちらともプレイヤーが望まない、けれど主人公とヒロインだけが心から幸福というような歪な結末を迎えるという形で、主人公がかなり優位にたった作品だと言えるだろう(個人的に本作を「〝たった二人〟の幸福」と呼んでいるのはこのため)。主人公のキャラ付けだけでなく、脚本の力で主人公をバックアップした好例だ。
そんな作品群の中で、「プレイヤーとヒロイン」という関係を突き詰めた作品が『ととの。』であり、逆に「主人公とヒロイン」という関係を突き詰めた作品が『スクイズ』である。
『ととの。』がいかにしてプレイヤーを優位に立たせているかは先日の日記にて記したのでここでは省略する。
それでは『スクイズ』がいかにして主人公を優位に立たせているかを述べる。
先述の『いたいけな彼女』ではその歪な脚本によって主人公を優位に立たせていることを述べたが、そもそもの話、普通のADV形式やノベル形式では「主人公とヒロイン」という関係を突き詰めるには限界があるように感じる。何故なら物語が分岐する選択肢を選ぶ権利を持つのはプレイヤーだからだ。さらに言えばプレイヤーがクリックによって物語を進行せねば、主人公とヒロインはそもそも結ばれすらしない。
その点を『スクイズ』はクリアしている。本作は普通のADV形式ではなく、フルアニメーションでプレイヤーが何もせずとも自動的に物語が進行する形式をとっている。選択肢に関しては制限時間制で「選ばない」ことも可能。さらに言えば「オートプレイモード」という、自動的に選択肢が決定されるモードまで存在する。
『ととの。』において、主人公の心一は己の人生を「階段」と喩えた。プレイヤーがクリックしなければ足は上がらず、前に進むことができないからだ。
同様の視点で誠を見るに、彼の人生は「動く歩道」のように、プレイヤーの存在に関わらず勝手に前へと進んでいくといったところだろうか。
また、フルアニメーションということは従来のADVゲームのような立ち絵演出がなされない。つまり画面上には当然のように誠の姿が現れ、彼はヒロインたちと物理的に接触することになる。
立ち絵演出は擬似的な一人称視点という見方ができ、その視点の主である主人公自身が立ち絵演出された画面上に現れることは稀だ。そんな主人公の視点をそのままそっくり共有することで、プレイヤーは主人公に対して優位を渡さない。これまた余談であるが『ななついろ★ドロップス』では主人公である正晴の立ち絵が表示されてヒロインと並び立つ重要なシーンが有る。このシーンにより今まで視点の共有によって歩調を合わせていた主人公とプレイヤーとの対等な関係が崩れ、主人公である正晴が圧倒的優位に立ち、プレイヤーは結ばれた正晴とヒロインを祝福をするしかないという構図を作り上げる演出が大変巧みだった。
……と、すこし話はそれたが、とにかく「主人公とヒロイン」が同一画面上に映るということは、それだけプレイヤーの付け入る隙を与えないことに繋がる。それを自然に演出できる点で、『スクイズ』のフルアニメーションは「主人公とヒロイン」という関係を強固にすることに貢献している。
その上で『スクイズ』における「主人公とヒロイン」という関係を絶対的なものにしているのは、やはり主人公である伊藤誠の強烈なキャラクターにある。
確かに彼はゲームの性質上、オートプレイモードでないときは選択肢の選択権をすべてプレイヤーに委ねている。プレイヤーは世界/言葉との物語を進めたいという意図を持ってそれを選択するだろう。しかし彼はそのプレイヤーの意図するところの斜め上をいく行動にでる。
だからこそ予定調和に収まらない予測不能なシナリオ展開が可能なわけだが、プレイヤーの選択を無視してゲスな行為を繰り返す誠に対して、我々は「誠死ね」と声を荒げることしかできない。
そう、この「誠死ね」というプレイヤーの呪詛こそが、まさに誠に対する敗北宣言なのだ。
俺の「エロゲへの取り組み方」は、まず主人公を殺す。基本的にどのエロゲをプレイしていても、主人公とヒロインの関係を、俺とヒロインの関係に置き換えて読む。
しかしこと『スクイズ』に関してはそれができない。本作のシステムとそして伊藤誠という強烈なキャラクターを前にして、俺と誠との関係を置き換えてヒロインとの恋愛を楽しむことなどできやしない。殺せないから、「誠死ね」と呪詛を唱えることしかできない。
伊藤誠という主人公は、プレイヤーがヒロインと擬似恋愛するための代替物などではなく、この上ない自我を持ってプレイヤーを観客席へと追いやる存在なのだ。
以上より、プレイヤーを無理やりゲームに巻き込むことで「プレイヤーとヒロイン」という関係を突き詰める『ととの。』から見て、『スクイズ』はまさに対極に位置する作品だと捉えることができる。
ここで注記すべきこととして、「相性が良い」ことと「楽しめるか」ということは別ということを理解して貰いたい。俺は相性が良いと自覚する『ととの。』を激賞しているが、一方で俺の「エロゲへの取り組み方」とは相容れない『スクイズ』も大変な傑作だと散々述べてきているし、そうでなければこんな記事を書かない。
……と、実はここまで書いておいてこれといった気の利いた結論に至れないわけだが、とりあえずこれを読んだ方々には俺の「エロゲへの取り組み方」に関しては知ってもらえたと思う。ひとつのエロゲに対する姿勢として見てもらえれば嬉しい。
なお俺の言う「主人公を殺す」ことに関しては抱き枕関連の記事であるものの『抱き枕・自己同一性・主人公』 - 総アクセス数9万突破記念記事という記事にてバカ語りをしているので参考に……はならないか。 ツイート

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Author:夏冬達樹 a.k.a こーしんりょー
雑食エロゲーマー。
レビュースタイルは「良いとこ探し」。
作品の企画書に載っていそうな「本質」を見抜きたいと思いながら、日々エロゲーをプレイする。
好物はロリと輪姦とおっぱい(大小問わず)。
抱き枕カバーが無いと禁断症状で夜な夜な金縛りに襲われる体質。
そんな私を人々は指をさして笑います。
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